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夢を見た。
その中で、私は“僕”であった。

その“僕”の“母”が入院した。重い病気か、大きな怪我か。
“僕”はその病室を遠くから眺めている。白い。それ以外はわからない。
何を考えるでもなく、ずっとそこに立っている。ふいに、“父”が横に立つ。大きな荷物。
ああ、では、とうとう、ついに。
“父”は一言、「引越しをする」と言って、荷物を持って歩き出す。“僕”はその後を追う。

新しい住処に着く。どうやらマンションのようだった。“父”が鍵を開ける。ドアの中に入って、

“僕”は、わらった。

新しい住処がとても素晴らしく、これからの新しい生活を頑張ろうと言う、覚悟の笑いではなかった。
“僕”のそれは、自虐や嘲りや皮肉のそれであった。

ドアの中には一間しか無く、正方形のその部屋は白く、そして壁際にはずらりと、間をついたての白いカーテンで仕切って、簡素なスチールパイプのベッドが並んでいた。どれもこれも、白いシーツ。

「好きな所を選びなさい」一番窓際にした。荷物を放り投げて、ベッドに倒れこむと、ぎしりと軋んで、消毒液のにおいが鼻に流れ込む。

そしてまた“僕”は、わらった。 “父”の手に抱えられたものを見て。

「ねえ、“父さん”、“母さん”は、帰ってくるの?」

その後は、覚えていない。

 :終:

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