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夢を見た。

私が立っているのはどうやら林道のようだ。
両脇にはすっくと立って凛々しい大木が列を成している。
木々の緑の天井から、黄金色の光が射し込んでいて奇妙に明るい。
その隙間を縫って、ざばざばと気持ち良い音を立てて、川が走るのが見える。
その川底はきらきら光る細かな砂。瑠璃、玻璃、石英、水玉、藍玉。
水面には一点の曇りも無い。
『この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている』小説の一節を思い出した。

ざざ、ざざざ

林道の途中、途切れ途切れの川面を見つめて、私は何かひたすら考えている。
頭を抱える余裕も無い。立ち尽くしたまま考えている。その悩みは深い。

ざざざ、ざざ

何と不毛な事だろう。
この清涼なる透明な空気と音の中にあってしかし、
私はなにか漠然とした良く分からない事について考えているだけなのだ。
どうせ答えなど出ない。
そんな無駄なことを考える暇があるなら、他の事をすればいいものを。
しかし私は考える事を止めない。
考えすぎてむしろ何も無くなりそうな頭の中に、黄金の光と音が染み込んでくる。

ざざざざ、ざ

川底のひかり、瑠璃、玻璃、石英、水玉、藍玉。
川面のひかり、混じり気の無い透明。
黄金のひかり、すっくと立ち並ぶ大きな木々。

もう、総て溶け込んでしまえば良い。
そう考えて、腕と体を投げ出す。

目が覚める。
私の部屋と生活には、あの美しい風景と音は無い。
ただ、漠然とした良く分からない悩みだけが残る。その根は深い。
ああ、全く。

 :終:

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