: 03 :

夢を見た。
私はその中で、ひとりの女性と向き合っていた。
暗く広い場所だった。

私は終始、彼女の美しい指先を注視していた。
その手は陶器のように白く、その膚の下の青く静かな流れを透かして、幽かに内側から輝くようだ。
触るとひやりと冷たく滑らかで、ひとつのささくれも無く、絹の感触を思い起こさせる。

私と彼女の座る地面は、何やら静かな花弁に覆われている。
周りは暗くてよく見えない。
ただただ、目の前の彼女の膚と花弁が仄かに、ひかりを帯びている。

何とまあ、美しいものだろう。
はたりと投げ出され内からひかる彼女の手は。
膚を透かして見える血管は、冴え冴えと蒼く浮かび上がる。

ふと、私は彼女の指先に違和感を覚えた。
何か、おかしい。はて、それでは一体、何処が。
とっくりと眺めてみれば、彼女の指先がほつれていた。

私は愕然とした。これはいけない。早くかがって直さなければ。
焦って上着の内ポケットを漁る。
幸いな事に、縫い針が1本、入っていた。きらりと銀に輝いている。

それを使って、彼女の手のほつれを直そうと奮闘する。
しかし不幸な事に、私の手は裁縫には向かなかったらしい。
銀の針が彼女の指を通るたび、そこからしゅるりと彼女は余計にほつれていく。

意味を為さない言葉を呻きながら、私は大きくなるほつれを直そうとする。
しかし、それも結局はほつれを大きくするばかりで、意味を成さない。
仕舞いにはもう取り返しのつかないまでにほつれ切ってしまった。

ここまで来てしまえばもう、押さえても押さえても勝手にほつれて行ってしまう。
しゅるり、しゅるるる・・・ぱさ。
ほつれていく彼女はしかし、幽かに輝くひかりを忘れてはいない。

結果、彼女は一本の長い長い糸に成り果ててしまった。
私の手には、きらりと光る銀の針、彼女の仄かに光る白い糸の端。
知らず、ため息が漏れた。

彼女が座っていた所には、ひかる糸が渦を巻いて広がっていた。
そのひかる固まりは、周りをぼんやりと霧がけるように淡く照らしている。

その淡く仄かなひかりに照らされて、花弁の鮮やかなこと。
ちらちらと踊りながら私の目に飛び込んだ。
手の中には、彼女の糸と、銀の針。

瞼が上がる、目を覚ます。
まだ外は薄蒼い空気に包まれた夜明け時だ。
ふと手を見る。針も糸も無かった。

 :終: