: 幕 :

 どん、と腹部に鋭い衝撃を感じた。そう思った時には、緋彦は既に床に倒れていた。
 赤い水が、床にこぼれるのが見える。一瞬遅れて激痛が走るが、声は出ない。出せない。
 視界と意識が急激にぼやけ始める。
 薄れ行く景色の中で、零が蒼弥の似姿に、マグネシウムを焚いたような光を点した鉄製の洋燈を近づけるのが見えた。眩しい光が人形に吸い込まれていく。
 薄れ行く意識の中に、小さな声でに嗤う零の声が響いた。
 嗤い、零の。瞬き、静かな微笑み、誰の?
 ブツン、と、視界と意識が暗転する。唐突の静寂。

 暗く赤い暗幕の張られた舞台の上、血塗れた部屋の真ん中、沢山のヒトのなり損ないの見つめる中、その奇妙な観客の静寂に、幕を引く声が厳かに響いた。

                      「お帰り、兄さん」

:終:

| →