: 僕たちに手紙は要らない :

 僕たちは2人同時に生まれた。同年同日同時刻。時間も分も秒もまったくぴったりに。
 僕たちには父さんも母さんもいない。兄さんも弟も姉さんも妹もいない。そこにいたのは、白い服を着た人たちと、僕らだけだった。何故だか、彼も僕もはっきりとそれは覚えている。
 それから僕たちは一瞬間に同時に存在するふたりの同一人物に、始まりと終わりに、なった。
 同じ瞬間を半分こしてしまった僕らは、ふたりで初めてひとり。
 僕たちは外見がそっくりだった。けれども僕は右目が見えない、彼は左目が見えない。
 性格は多少は違ったけど、考える事は手に取るように分かって、どちらが自分の考えか分からなくなる事もしばしば。
 僕は笑うのが得意で、彼は笑うのが下手だった。
 僕も彼も、泣くのは苦手。
 僕はひとに嘘をつくのが得意で、彼はあまり上手じゃなかった。
 僕は表情を作るのが得意だ、彼はあまり上手じゃない。
 僕は嘘吐き、彼は素直だった。
 僕も彼も、痛いのが嫌い。
 僕は怪我をする前に包帯を巻いてしまう、彼は避けもせずに傷を負う。
 僕は護っているつもりだった、彼は護られているつもりだった。
 僕は護られていた、彼は護っていた。
 こうして僕らは育った。いつの間にか。
 そうして僕らは離れ離れになった。いつの間にか。
 それでも声は聞こえる。遠くから頭に直接。
 これは僕の脳内の妄想だろうか?確かめようにも、しかし、手紙の書き方を僕たちは知らない。本当はのどを使って声を出す方法だって、知らないのかもしれない。
 それでも僕たちはふたりでひとりだ。
 僕は始まりで彼が終わりで、それらの違いは無い。従って、僕は終わりで彼が始まりだ。
 彼が死ぬときが僕が死ぬとき。だからきっと今彼は生きている。
 脳内の声は僕の声、彼の声。
 ああ、今日も定時の報告だ。

 おはよう。
 おはよう。
 今日は何処まで行ってきたんだい。
 今日は観測所を見てきた。君の居る街が見えたよ。君は?
 僕は今日はずっと家にいた。懐かしい本を読んだよ。
 それはよかった。
 そっちこそ、楽しそうで何より。
 ねえ、
 何?
 君はそこにいるよね。
 僕はここにいるよ。君も、そこにいるよね?
 もちろん。
 良かった。
 うん、良かった。
 それじゃあ、また後で。
 じゃあね。

 :終:

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