「どうしたの、地球儀なんて見て。良いでしょうそれ。擦り切れてきた地球図」

「地球が丸いなんてつまらない。行っても行ってもどうせ元の場所に戻ってしまうなんて。
どうせなら流れ落ちる地平の滝からどこか知らぬ世界へ落ちてしまいたい」

「そうだね、でも仕方ないよ、今はそうじゃないんだから。
いくら君が逃避のランプをつけたところで、道は真っ暗さ」

「ねえ知ってる?もう僕は一番きれいな時期を通り越してしまったんだ。もちろん君も」

「知ってる」

「いつだった、と、思う?」

「うまれる前、かな」

「そのとおり。パーフェクトな回答をどうも。
きれいなままだったら、僕らはきれいなものを求めなくて良いんだ、求めないはずなんだ。
だって自分が本当にきれいなままなら、他の作り物なんていらないんだから。
僕たちはもうきれいではない。だから、きれいなものの安っぽい模造品で少しでもきれいを再生させようとするんだよ」

「でも、その性質を失った時点で、僕たちはそれをもう正確に寸分の狂いも無く完璧に、思い出す事なんてできない」

「そう、だから、僕たちにもう「本当のきれい」は思い出せないし、手に入れることもできない」

「残念だね」

「とても。ねえ、僕は、ずっときれいなままで居たかったよ」

「宇宙の果てでひとり?」

「宇宙の果てで、うまれる前の君と、ふたりで」

「うまれる前なら、僕も君も同じものだから、結局ひとりだけどね」

「うまれる前だもの、そんなの認識できないんだから、良いんだよ」


-双子の地球儀-