: ひまわりの尻尾 :

* * *0になったぼくと、くもがはら* * *

目下雲の上、視界は良好。眼下に遥か・・・見えます。さっきまで君といた所が見える。気温は低温、少々肌寒い。半袖だからかな。足元は安定。君が童話で想像したような、綿菓子の感触はありません。コンクリートみたいだ。折角の雲の上なのにね。雨雲の上だからかな。このふたつ色が似てる。白い雲の上は草むらか何かのように柔らかい。そう云えば、さっき男の子に会ったよ。外国の子なのかな?綺麗な金髪で。妹を探しているんだって。見つかると良いね。あの子は裸足で寒くないのかな。僕はちょっと寒い。遠くの遠くの下のほうで、猫が鳴いているけど、君の猫だ。元気かい?手を振ったら見えるだろうか、ここから、君に。さようなら、さようなら。言えなかったよ最期のことば。ごめんね。

* * *まだ0.1だったぼくと、ねこ* * *

 裸足の足首に猫が擦り寄ってきた。さっきまで鳴いていたのは、猫君、きみか。
「にゃあおう」
なんだい、お腹が減っているのかい。ごめんね、何も持ってない。ああ、何だか少し、きみは似ている気がする。あの子の、もう離れてきちゃったけど。尻尾がね、あの子の好きな色なんだ。あれ、歩くの?
「にゃあう」
うん、ついてくよ。ああ、そう云えば僕は裸足だ。寒いな。どうして靴、履いていないのだろう。
「必要ないからさ」
あれ?何だ猫君、喋れるの。そう。
「いらないもの全て置いていくんだ。怪我しないだろう、ここじゃ」
 そうだね、この雲の上では。
「眠いかい」
 どうして?
「そう云う目をしている。安心しろ、ここでは眠いのが当たり前」
 猫君は?
「例外」
 そうなんだ。でも、じゃあ。ああ、どうしようかな。どうしたら良いかな、僕は。
「そこの螺旋階段を」
 昇れば良い?
「そう」
 昇ると何があるの?
「知らない。昇ったという結果がある。行くべきじゃないかな?あるんだから。階段」
 昇っても逢えるかな、また。よく見ると、本当に良く似ているね。
「知らない。誰に?」
 ひみつ。それじゃあ、おやすみを、しよう。
「ずるい別れ方だ。けど知ってるんだ、分かってるんだ。起きたら伝えておくよ最期のことば。おやすみ」

 おやすみ。

* * *0.9だったきみを、おもう、0になったぼく* * *

 流れる螺旋階段。僕の代わりの猫のとなりで、まだ眠る君は、一歩ごと確実に遠くなっていく。君から離れる一歩ごとに僕は薄くなり、君は濃くなる。1に近づく。さようなら、さようなら。
ごめんね直接言えなくて。ごめんね勝手に抜け出して。でも、僕はもう君だった頃の僕ではない、から。もう一段上ったら、おわかれ。さようなら、さようなら。
さよなら、おやすみ、君が地上に醒める時まで、良い夢を。 

(君はもうきっと、僕を思い出さないだろう。昔に失くした飛行機のプロペラのように)
(今までもそうだったんだよ、きっと君は覚えていない。でも、それで、いいんだ)
(君はもう起きる、僕はもう眠い。流れる螺旋階段、僕は0で君は1になる)

 :終: