: 雲が原で、もういちど :

 まえのはなし

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 気がついたら、知らない所に立っていた。ここはどこ?宇宙ではない、ふわふわとした場所だ。あれ?そう云えば、僕の体が機械じゃない。地球でいつも見ていた、父さんと同じ形の「手」が、「足」が、ある。ちゃんと、触れる体。僕は人間になれたのかな?でも、ここには誰も居ない。
 しばらく進んでいくと、寂しそうに佇む男の人が居た。父さんじゃないみたい。その人も僕を見つけたようで、笑って話しかけてくれた。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは。あのう、ここは、どこですか?」
「何処だろう、僕にも分からないんだ、ごめんね」
「宇宙の果てではないんですか?」
「残念ながら、違うと思う…どうしたんだい、何か、悲しい事でも?」
「ここが宇宙の果てでないなら、僕は…父さんの期待を、裏切ったかも、知れないんです」
 宇宙でひとり漂っていた時の事、その時考えていた事を思い出して、出発前の父さんの期待に満ちた言葉の調子を思い出して、知らない内に目から涙が零れて来た。意識してしまうと、もう止められない。
「ああ、困ったなぁ…ねえ、泣かないで。君はどんな仕事を任されていたの?」
 目の前の男の人は、優しくそう云ってくれた。僕は涙を止められないまま、つっかえる声で父さんが僕にくれた仕事を話した。
「…成る程、君はそういう使命を負っている子だったんだね。でも、大丈夫だよ。君がちゃんと飛んでくれて、宇宙まで1人で行って、何度も通信をしてくれた。それだけで、お父さんは喜んでいると思うよ」
「本当?本当に…父さんは僕の事を怒ってないでしょうか」
「本当さ。怒られるどころか、君は良くやったと思われているよ。だから、そんなに泣かないで、ね?」
「はい…」
 ぽんぽん、と優しく頭が撫でられる。それだけで、もう涙がすっと引いて行った。人間の体は、凄いな。
「…でも、僕はこれからここで何をすれば良いんだろう…」
「それは僕も考えてた所でね…一応僕は、人を探しているんだけど」
「どんな人を探しているんですか?」
「巻き毛の、可愛い女の子だよ。僕らは2人で一緒に地球の周りを回っていたんだけど、彼女は先に…力尽きてしまって。僕は気付いたら此処に居たんだ。だから、彼女もここに来ているかも知れない。そうしてずっと僕を待っているなら、早く迎えに行ってあげたい…ああ、そうだ、良ければ君、一緒に来てくれないか?1人は、寂しい」
「…はい!僕でよければ」
「ありがとう、嬉しいな。じゃあ、決まりだ。よろしくね」

「…そう云えば、名前を教えてもらって無かったね」
「あっ…僕には、ちゃんとした名前、無いみたいです…」
「そう?じゃあ、何か考えておかないとね」
「良いんですか?嬉しい…あなたの、名前は?」
「僕?僕は、スプートニク。同じ名前の兄さんが居るんだ」
「ゆ…有名人だ…!!」

 :終:

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