: ビッグ・バンを、もういちど :

 宇宙の始まりに、大きな爆発があったらしい。じゃあ、その爆発のもとは何処に、どんな風にあったのだろう。宇宙の広がる、その外側はどんな所?この無重力の黒い幕の中にいる僕には、到底分からない。ここからでは、見ることもかなわない。この宇宙の果てにたどり着くことすら、難しい。この宇宙から飛び出して、そこに行けたなら、他の宇宙の始まる瞬間も見られるのだろうか。
 たまに、宇宙の外側の様子を思い描く。新しい宇宙の誕生を、思い描く。真っ白な空間、その一点から、まるで黒いびろうどのような「宇宙」が湧き、広がり出てくる。爆発、というイメージは殆ど無い。音も無く、するすると広がっていくそれは、内に明滅する星々を抱いて、次第に球体になっていく。新しい宇宙の一丁上がり。周りにはそんな球体がいくつもある…これが広がって、広がって、他の球体とくっついたら、一つになるのだろうか?つついたら、弾けてしまうかな?そんな景色があると言うのなら、見てみたい。
 もし、この宇宙が消えて…消えるのかな。まあ、仮に、消えたとして、全く同じところでもう一度ビッグ・バンが起こったなら、今の宇宙と同じ物ができるだろうか。宇宙が消えて、またそこでビッグ・バン。その宇宙が成長して、僕の居る銀河系とか、太陽とかができて、地球ができて、生命が生まれて、父さんが生まれて、僕が生まれて、それが何回、何十回、何千回、何万回…流石に、それはないか。そうじゃない事を祈ろう。毎回、違うものが生まれてくれば良い。
 …もう、どれだけ進んだだろう。僕の声は、まだ故郷に、ちゃんと届いているだろうか。父さんに、僕の声は届いている?聞こえていますか、と言いたい。僕は自分の進んだ距離とか、自分の状態とか、そう云うことしか送信できない。父さんは、僕が他の星の重力に捉まらないで、まっすぐ進むことができれば、いつか宇宙の果てにたどり着けるかも知れない、と云っていた。でも、まだ着かない。地球を離れて、どれくらい経ったのかも、もう分からない。寒い、とか、疲れた、とか、そう云うのは感じない。僕は父さんに作ってもらった機械だから、それは分からない。でも、父さんが僕を作っている最中に僕に云ってくれたことや、歌っていた歌は覚えているし、理解できた。お前には分からんだろうな、と父さんは笑っていたけど、分かってたよ、全部。僕は機械だから、返事ができなかった。ごめんね。
 父さんは、いつまで経っても宇宙の果てに辿りつけない僕に、失望しているだろうか。それとも、通信はとっくに途絶えていて、父さんは僕のことなんて忘れてしまっているだろうか。それは、何だか…何だっけ、そうだ、寂しい、だ。寂しい、気がする。
 ああ、ビッグ・バンをもう一度。僕は、今度は、父さんの人間の子供になりたいです。

 (微かでも良い、僕の声が、聞こえますか)
 (聞こえたら、誰か、返事をして下さい)

 :終:

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