: 展 :

 人形展の会場は、やはり多くの人で溢れ返っていた。この中に、何人の有名人がいるのだろうと思うと、目眩がしてくる。
 会場の中は、少し薄暗い位の照明で照らし出されていて、まるでこれから夜会でも開くような雰囲気だった。その中で、表情を持ちはするが固定され動かない、光をはね返すガラスの瞳の人形達が、それぞれ豪華に、または簡素に、しかしそれぞれの個性とでも言うのか、その個体の雰囲気を引き立たせるように、効果的に飾られている。
 出来は、素晴らしいのだろう。この繊細さだ、高水準の評価がなされるのも、納得できる。
 しかし、やはりこの無機質のヒトガタ達の、光を反射するだけのガラスの瞳、動きそうで動かない彼らの時間の無音には、緋彦は馴染めない。これを、美しいと思ってしまうのが、怖いとも言える。緋彦の中では、やはり人形は人間の、蒼弥の死体と重なってしまう。
「緋彦さん」
 名前を呼ばれて辺りを見回すと、すぐ隣に零がいた。来年で成人だったろうか、零と会うのは蒼弥の葬式以来で、随分と伸びた身長に、緋彦は一瞬それが誰だったか解らなかった。
「零君?」
「そうだよ、解らなかった?まあ、久し振りだからね」
「随分、背が伸びたなあ」
「そうかなあ。もう、肩がこるよ、こんなに人が集まってくるなんて。四年前の葬式の日だって、こんなには来なかったのに」
 もううんざり、と零は肩をすくめて言う。その仕草に、緋彦は何故か少し安堵する。
「そうそう、ねえ、緋彦さん」
「何?」
「今日、来てもらったのはね、あなたに特別に見せたい物があるからなんだ」
 そう言った零の眼に、蒼弥の死体を見た後に緋彦を見た眼と同じ、心の底を読み取って見透かすような冷たい光が宿るのを見て、緋彦の中に浮かんだ安堵の温度が急激に下がった。
「でも、こんな騒がしい所じゃ話も出来ない。ねえ、ついてきて」
 行ってはいけない、と、緋彦の脳の奥が告げている。しかし、肝心の足が自らの意思で動こうとしない。まるで、海の沖で、大きな潮に為すすべも無く流されていく小舟のように、または、自分で動く事の出来ない人形のように、ただ零の後を追うよう歩くことしかできなかった。
 当の零は、話しかけてくる人々を会釈でかわして、まるで森の中を進む猟犬のように、すいすいと人ごみの中を進んでいく。