: 理科のできないひまわり色 :

夢の話をしよう。

(自称)俺(夢の中の私だ)は、先輩(しかし私はかの人物を知らない。染めたひまわり色のひとだった)に誘われたのか(覚えていない)、写真を撮られに、何処かの学校(それにしてはちぐはぐな建造物)に来ていた(勝手に入って良いのだろうか、しかし誰も居ない)。
ひそりとした空気と、色の抜けた部屋。
コンクリートで囲まれたこの部屋にドアは無かった(では何処から入った?)が、目線より少し上の所に、四角く抜かれた窓(と言うよりは穴)が、ぽっかりとひとつだけ。パキパキと角ばった影と光。
「おぉい、そこに居んの?」
先輩(私は彼を知らない、誰だ、彼は)がカメラ(トイカメラのような)を片手に窓を覗き込んでいた(どうして彼は逆さから窓を覗いているのだろう。何処から?)。
「先輩、ここに居ますよ」
「後輩(彼は私をそう呼ぶ)、ほら、この窓んトコで撮ろうと思うんだけど」
先輩はカメラを構える(が、しかし、私は)。
「・・・ここの窓は、嫌だな」
「どうして。フツーの四角い窓だ」
「そうなんですよ。外から見ると。本当にフツーの窓なんですよ。真四角の。ここから見ても、やっぱり本当にフツーの窓だ。でも、何か、怖い。このフツーなのが、怖い、怖い怖い。おかっぱみたいで。ねえ、撮るなら向こうの木製の窓にしましょうよ」
(変な奴だ、と彼は小さく笑った、静かに、ひまわり色の髪が揺れた)
そう、じゃ、そこから出でおいで。先輩は逆さまのまま、窓に手を入れて俺(私)に差し伸べる。
(小さな窓。ギリギリ通れる?通れない?)
先輩の(乾いた)手を掴んで(いきなり抜けやしないだろうか)、部屋の外に出た(旧い古い木造校舎、広いグラウンド。景色は色褪せた黄緑のフィルタを通して)。
どうして先輩は俺(私)なんかを撮ろうと思ったのだろう(その理由を私は知らない)。
木製の窓の中は、教室だった(やわらかく気だるい午後のひかり)。
黒板にはいつかの理科の授業の跡か、図がふたつ(豆電球と電池ボックス、プラスマイナス、導線)白と緑のチョークで歪み無く。
『問題。この豆電球を点けたいあなたへ、どちらに向かって電流が流れればいいでしょうか』
「お、懐かしいなあこれ」
後輩、お前解けるか?これ。と、先輩は黄色いチョークで右側の図に矢印を描き入れた。
(電池ボックス右がマイナス左がプラスで)
先輩の矢印は右から左へ向かう(合ってる?)。
俺の(私の)矢印は左から右へ(間違ってる?)。
黒板に描かれた俺(私)の図の電球に(絵なのに)明りが点く(しぼんだひかりだ、今にも消えそう、ちかちか)。
(矢印が逆のまま直らない)先輩の電球は何時まで経っても点かないままだ(点く必要が無いのだろうか?彼は不自由をしていないように見える)。
何時までも逆に流れ続ける先輩の電流を、少し羨ましいと思った。
「俺、理科できないんだよね」先輩は(さびしそうに)わらった。

ここで覚醒。
結局、彼のカメラのシャッタが切られたかどうかは知らない。
ただ、少しのさびしさが私の瞼の裏に焼きついていた。

(理科のできないひまわり色の、さびしい笑顔)
(そのままでいて下さい、と云いたかったのだけれど)

 :終: