: 死ねない男の最後の言葉 :

 ある日事故っていきなり両手両脚を失くした俺。その日からベッドの上の包帯だらけの俺。痛い?別に。でも、今日は顔色が良いですね、って看護士さんそれ何の冗談?窓で区切られた空は前よりほんの少しだけ絶望の色を薄めた気がする。どちらかと言うと諦め、それとも色が濃くなったのに気付かないだけ?どうでもいい、どうでもいい。そうだどうでもいいじゃないか空の色なんてそうだろ、そうに決まってるだって蒼い空は元々絶望色じゃないか。
 それでお前は何しに来たの。片手に大きな花束それも俺が大嫌いな花ばかり入ってる奴、イヤガラセ?もう片っぽに黒光りする銃を持って。撃ち殺しに来たの?責任とって自殺しに来たの?ここ病院だからきっと俺もお前も死ねないよ。ああでもお前の血も俺の血も赤いから、ほらその花束に良く似合うんじゃない俺は赤は嫌いだけど。それで結局何、その花束はイヤガラセなのその銃は何のジョークなの別に偽物って疑う訳じゃねーけど。て言うか本物でしょそれ。いくらしたのそれ。
 ああもうあれだそうそう俺は死ねないって話だよ。死ねない死ねない死ねない。しねない、んだよ俺。だってそうだろ今まで一度も俺死んだ事無いもん。だからさ、だからそうそう丁度いいじゃんお前がそれで一度俺を殺してみてよ。死んだ奴の話は聞いた事あるよ俺そんなに馬鹿じゃねえよでも話だけじゃ分かんねーよ俺ほら馬鹿だから。別に積極的に死にたい訳でもねえよだって俺まだやることありまくりだもん俺。でも死ねないって、死ねるか分かんねえってことは死ねないじゃん今んとこ、それって結構イライラすんだよ何かこう。分かる?分かんねーよな。でもだからさ、だからお前が俺を殺してみろよほら丁度持ってんじゃん銃。いや死んだら生き返れねえんだろそれ位知ってるって馬鹿にすんなよお前。は?おいちょっと待ておいお前が死にたがってどうすんだよ死にたいのは俺だよいや死にたくないのも俺だよ分かんねえかな分かんねえよな俺にももう分かんねえ良いからお前は銃口を俺に向けてろよ。もういっそあれか、死ぬまで死ねない死ねない俺はしねないって絶望し続けるしかないのか俺は。自殺?何言ってんのお前俺もう手も脚もねえよ歩けないよ?飯すらひとりで食えねえ俺がどうやって華々しく死者デビュー括弧自分プロデュースできるっつんだよ。おいだから何でお前が死にたがるんだよお前が死にたくなってどうすんのって。嗚呼ホントに俺は死ねない死ねない死ねない、しねない。お前もだ。お前も俺も死ねないな。こうなりゃお前も道連れ一緒に絶望しようか。

(意味不明な言葉を口走って奴は満面の笑み。眼の中は真っ暗闇の底なし沼)
(僕は絶望する気なんてさらさら無いから)
(奴の一番最後の提案という望みどおり、乾いた指で引き金を)
(ああ、おめでとうこれで君も僕も華々しく、)

 :終: