: ゾンビ化現象 :

 例えばある二人の関係が終わったとしよう。その二人はそれまでとてもとても仲がよくて・・・うんまあ、どう取ってくれてもいいよ仲がいいについては。彼らは本当に仲がよかったのに、まあ何かしらの理由があって・・・うん、だからどう取ってもいいって、いちいち質問しなくてもいいんだよ。で、何かしらの理由があって、二人の心は別れ別れになってしまった。
 それでまた例えば、そのうちの片方がその何かしらの理由に賛成できていなかったとしよう。当然彼は・・・うん?だから彼女でもいいよ。彼は、別れ別れになるのに反対なわけだ。この彼の心。これは言わば、ちゃんとした葬式が為されなかった死体みたいなものでね、納得できない心はいつまでもいつまでも未練ばっかり追ってて、自分が死んだことに気づかない訳で。自覚しない内に・・・あ、死体が放置されるとどうなるか位知ってるよね?そうそう、腐っちゃうんだ。
 それでも葬儀の為されていない死体は死んだことに気づけないから活動しようとする訳。腐ったまま。うわあ、気持ち悪いね。
 つまりそれが、ああ、終わったことに気づかないまま未練たらたらな心が相手を追うこと、これを、ゾンビ化現象って言うんだけどね。まあ知ってるだろうけど、ゾンビってもう脳みそまで腐ってるから、判断能力とかきっと無いんだよね、タガが外れちゃってるって言うか、だから、人を喰うんだよ。うん、喰うまでは行かなくても暴走して殺しちゃうとかね、する訳。それと同じことがこの彼の心にも起こると考えられるよね。これが、恋は盲目、って奴。え?違う?そうだっけ。
 で、彼の心は暴走するわけだ。タガが外れて。未練が破壊衝動に、殺意にって奴。怖いねえ、ホント。ああ怖い。
 ・・・ねえ、どうしたの?さっきまで質問責めだったくせに、そんなに黙り込んじゃって。何か眼が怖がってるみたいだなぁ。僕が怖いの?どうして。ああ、もしかしてこの前の事、考えてる?馬鹿だなあ、僕は暴走しないよ。見くびられたものだね。
 それでね、ゾンビ化現象って、もうひとつあるんだよね。これはすっごく性質が悪くてね、ああ、悪霊化って言ったほうがいいのかなあ。葬儀を為されないことを自覚しつつ意思を持った死体は、うん、死んだ事を自覚して動くんだ。まあ、これも腐ってるんだけどね、脳とは違う次元で何か意思が働くのかな。しらないけど。まあとにかく所謂、幽霊?そういうのって、自分の確固たる意思で相手を破壊するんだって。自分が何をしてるか知ってて。自分がもう後も先もないから何をしても変わらないって知ってて。怖いねえ。怖い怖い。あはは。ねえ、本当に、怖いんだよ、知ってる?知らないかあ、見たことないもんね、きっと。
 え?うん、そう。だから、どうしようかなあって、思って。うん。ねえそこで怖がってないでさ、質問は?無いの?ふうん。聞かないんだねえ、僕がどっちかって。うん、どっちかっていうと・・・まあ、もう、解ってるよね?

(片手に切れ味の悪いナイフ、ぎらり)

 :終: