: 僕だけが :

ねえどうしたのって、さっきから聞いているのに君は上の空。
毒々しい色の丸いチョコが周りを取り囲んでいてきっと僕の声は届かないんだ。
押し出された錠剤が君の手のひらの上によっつ、いつつ、むっつ。
銀の膜から孵化したそれらは君の奥歯に噛み砕かれて。
眠りたい?目を覚ましたい?ねえ、どっちかな。
知らないよ、そんな目で見たって、僕は君に近づけない。
君が自分でこの毒々しいチョコを撒いたんだよ。
甘くないよね、きっと。
足を踏み出した途端に噛み付くようにしたのは君だよ。
どんなに捻れた芽が出るだろうね。
もしかしたら、すごく綺麗かもしれないけどね。
ああ、君の手のひらには孵化した錠剤がむっつ、ななつ、やっつ。
戻りたい?戻りたくない?ねえ、どっちかな。
君ももう、動けないのかな、このチョコの海に足を踏み出すのが怖いんだ。
チョコの樹海の檻の中だ。
かわいそうだね、自業自得だけど。
大丈夫、僕はずっとここで見ていてあげる。
君がそこでどんなに呼ぼうと睨もうと、そちらには行かないけれど。
見ていてあげるよ、ずっと。
僕は君を、壊したい?壊したくない?どっちだろう。
ただここで、見ていたい。
うん、大好きなんだ。
本当だよ。
信じてない?
それでもいい。
君はこっちに来られないんだし。
僕もそっちへ行けない訳だし。
ああ、僕だけが知ってる。

 :終: