: 騙された! :

1、2、3
さあ口を閉じて
言葉は出尽くした

はいおはようございます。今日もよく喋りましたねー。
どうですスッキリしてるでしょう?
ああ、また忘れてしまいましたか?何でここに居るのか分からなくなってしまいましたか?ええ、大丈夫ですよ。
あなたは、自分が何をしたいか知りたくて、私の所に通っているんですよ。
で、自分じゃあ分からないというので、お薬で引き出してるんですねー。
それで、今までのはどうにも本心のようでない、とあなたが仰るので、治療を重ねて少しずつ引き出して、近付けようとしている訳です。
今までの経過をお聴きになりますか?

テープ1
はい、どうぞ話して下さい。
《………》
もしもーし。
《…したい…》
何をでしょう。
《殺したい!》
誰をですか?
《………》
分かりませんかー?
《………》
はい、では結構ですよー
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さあ口を閉じて
もう何も出てこない

テープ2
はい、今日は誰を殺したいか分かりましたかー?
《…隣の家の…》
隣の家の方ですね?
《………》
どうしました?
《………》
分かりませんか?
《………》
はい、では結構ですよー。
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さあ口を閉じて
言葉は出尽くした

(中略)

テープ6
さあ、お話しください。誰を殺したいのですか?
《誰でも良い!!》
誰でも良い、ですか。大きく出ましたねー。隣人、教師、妹、父、犬ときて、今度は全員ですね。
《殺したい、俺は、》
はい、ですから、何を。
《………》
ええ、はい、結構です。ではまた次回ですねー。
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さあ口を閉じて
今日はもうおしまい

はい、ここまで、前回までの記録です。まだ決まらないようでしたねー。でも今日、それらしい事、仰ってましたよ。ですから、スッキリしてるでしょう?ああ、その様子だと、思い出したようですねー。はい、ええ、聞きましたよ。そんなに血走った目で見ないでくださいよ。ええ、あなたが、殺したいのは、

カチリ、
《俺が、殺したいのは、》
〈はい、どうぞ、仰ってください〉
《俺は、》
〈はい〉
《俺を、》
〈はい、あなたは、あなたを?〉
《殺したい…》
〈よくできました〉
カチリ。

はい、この通りですねー。
どうしましたー?痛いのは嫌ですか?そうですねー嫌ですね、困りましたねー。
じゃあ、私と入れ替わりましょうか。
そしたらあなたはあなたを刺し殺せますよ。ほら、包丁もここにあります。
ええ、はい、では。
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さあ目を閉じて
もうあなたは私

はい目を開けてくださーい。
見えてますか?目が悪くて、ぼやけてたらすみませんね。
さあ、あなたの手には包丁、目の前に憎い人が見えてますねー。
はい、中身があなただと思って。
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さあ息をついて
その刃を深々と

はい、ありがとうございました。
これでやっと私が死ねます。
次はあなたがここの当番ですよー。
死ねるように頑張ってくださいねー。
では、さよなら。

 :終: