: 部屋の中に誰かいる :

 1週間ほど前からだろうか、部屋の中に知らない人がいる。いや、ここが人間の住む為の部屋なのだから、人が居たところで何の不思議も無いのだが…問題は、この部屋が俺の部屋で、俺は1人暮らしで、ここ2週間ほど誰かを家に上げた覚えもない、という事だ。
 それに、本当のところ、あれが人なのかどうか俺にはわからない。ぼんやりとした光がぼんやりと人の形をしているから、人のようなもの、と云うのが正しい気がする。けれど、「知らない人」ということにしておく。心の中で、そういうことにしている…けど、果たして「知らない人」と「得体の知れないヒトガタをした何か」と、どっちが怖いだろう?どっちとして認めた方が、状況的に……いや、両方だろ、これ。駄目だ、どっちも嫌だ。
 そいつの話をしよう、そうだ、誰かに話せば怖くない。独り言だけど。頭の中の。……空しい。まあいい。そいつは、部屋の真ん中に突っ立っていた。部屋の電気を消して、真っ暗にするとそいつの姿が見える。向こう側が透けて見える程度の白い光がぼんやりと人間の形を取っている。猫背気味に俯いて突っ立っている光の人影だ。喋ったらきっと後ろ向きな事しか云わないに違いない。そいつは、何をするでもなく、動かずにただ部屋の真ん中に突っ立っていた。電気をつけると見えなくなる。そして、消えると見える。
 そいつは動かずに立っている…のだけれど、ある可能性に気付いてから、俺は電気をつけるのが怖くなった。だって、電気をつけて、見えていない内にそいつが移動してたら、と思うと…。電気をつけて、消して、いつもの所にいなくて、もしかして背後にいたら、とか思うと…なあ、怖いだろう?怖いに決まってる。俺は怖い。
 恐ろしいことに、今その電気がついている。酔った友人が勢いで上がりこんできて、部屋が暗い、と勝手につけた。奴は自分で電気をつけたくせに部屋の隅、俺の目の前でソファに長々と寝そべり眠りこけている。俺はといえば、今度は電気を消すのが怖くて動けない。
 だって、今、首筋に、生暖かい誰かの息がかかってる。頭のすぐ後ろで誰かが何か、呟いてる。聞き取れない、何か話してるのに、言葉の意味が取れない。冷や汗がにじむ。じとりとした空気が背中をなでている。
 その呟きが、一瞬、ぴたりと止む。

 今、後ろで、大きく息を吸う音が、

 :終: