: Red Seedless Grape :

 真っ白なテーブルを挟んで、向かい側に、白い服を着た少女が座っている。少女は、髪も肌も白い。少女は、うつくしい緑の目をきらきらと輝かせて、にこにこと笑っている。私と少女の間には、透明なガラスの器に山と盛られた大粒の葡萄がある。
 少女は葡萄を一粒つまんで、それを、手元の白い布で丁寧に磨き上げる。その内、葡萄の粒は宝石のように輝き始める。
 磨き上げた葡萄の皮を、少女は薄い爪を立てて剥いていく。つぷりと爪が刺さったところから、透明な果汁が湧き出て、少女の細い指を伝い、ぽたりとテーブルクロスに落ち、薄い染みを作る。
 少女は、剥き終わった葡萄の、半透明の粒を、ゆっくりと口に運ぶ。味わい、飲み込む。指に残る果汁を、薄桃色の唇で、小さく音を立てて吸う。
 種はどうするのだと私が問うと、少女は、ふたつ目の葡萄を剥きながら答える。
「この葡萄には、種がないのですって」
 食べられるためだけに作られたのよ、と、少女は微笑み、葡萄をつるりと口に入れる。そうして少女は静かに、次々と葡萄を磨き、剥いては胃の中へ納めてゆく。みるみる間に器の中の葡萄は減っていく。少女の爪の先は薄く葡萄色に染まっている。
「あなたもいかが?」
 少女は、滑らかな指でつまんだ葡萄を、私に差し出して云う。私も、葡萄が食べたいのだが、しかし、葡萄だけでなく少女の指先まで喰いちぎってしまいそうなのが、怖い。
「いいのよ、私ごと食べてしまっても」
 ためらう私に、少女はそう云って、にっこりと笑う。その笑顔は背中の毛がぞわりと逆立つ程にうつくしい。私の喉が鳴る。
「私もこれと同じなの。だから、一緒に食べてもまずくはないと思うわ」
 私が食べても良いのかと聞くと、少女は嬉しそうに笑う。
「種なし葡萄はもう飽き飽き。全部、食べてしまってね」
 少女は残りの葡萄も両手に乗せて差し出してくる。私は牙の揃った口を開け、少女ごとかじりつく。
 ぱしゃん、と水が爆ぜるように、少女は消えた。私の口の中には、この上なく甘い味が広がっている。それを飲み干して、私は目を閉じ、眠る。

(少女が私の胃の中で、幸せそうに微笑む)

 :終: