「おはよう」
「おはよう」
「今日も何だか言いたそうな声じゃない?」
「ご明察。でも、正直、こんなの言った所で、世界は何も変わらない。そんな事だよ」
「良いんじゃない?大抵の物に明確な意味なんて無いよ」
「そうかな」
「そうだよ。それで?」
「うん、結局さ、この前言ったろう、君の見ている赤は、僕の見ている赤か、って」
「聞いたね」
「仮にそうだとしても、結局その色は“赤”な訳で」
「どう見えていようが、話は通じるね」
「そう、表面上には何ら問題は生じない」
「別に良いじゃない、不便でもない」
「でも、そうするとだよ、話が通じたとしたって、自分と同じ世界を見ているとは限らないんだよ」
「確かに」
「と、云う事は」
「ああ」
「いくら話が通じても」
「いくら綺麗なものが同じでも」
「決して、自分と同じ事を他人と共有できる訳、ないんだよね」
「永遠に分かり合えることなんてない、って事?」
「受け取った情報が同じでも、受け取り方は違う。理解した、って言ったって、僕が理解しているその事と、相手が理解しているその事には、脳が違う限り、相手が自分じゃない限り、絶対にズレが生じる」
「でも、近似値は出せるんじゃない?」
「それを確かめる術も、無いよ。聞いていく内にどんどんズレが生じて」
「ややこしいな」
「だろう?だから意味が無いって言ったじゃない」
「疲れてるんだね」
「疲れてるよ」
「もう暖かい風呂に入っておやすみ」
「できたら今すぐにでも」
「僕はもう寝るけど」
「・・・裏切り者」
「ごめんね、おやすみ」
「おやすみ」
-双子の理解-